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「サービス」に関する特許の取り方を実例とともに解説

更新日:2024年5月12日


飲食店の飲食提供から不動産の仲介サービスまで、「サービス」の種類は幅広く、業態もさまざまです。私たちの社会では、日々新たなサービスのアイデアが生まれていますが、実は単なるサービスそのものは「発明」には当たりません。


しかし、特許制度を使ってサービスの独自性を保護する方法はいくつかあります。今回は、サービスに関する特許の取り方を、事例とともに解説します。



特許制度の趣旨と特許の種類


特許制度は、発明を保護することで発明を奨励し、産業の発達に寄与することを目的としています。よって、特許法上保護される発明は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(第2条第1項柱書)に限られます。


すなわち、特許法上「発明」として保護されるには、「自然法則を利用した技術的思想の創作」である必要があります。


そして、発明の種類は、大きく「物の発明」、「方法の発明」、「物の生産方法の発明」の3種類に分けられます。サービスに関する特許を取得するための最初のアプローチとして考えられるのが、これらのうち「物の発明」ないし「方法の発明」として何らかの特許を取得することです。



サービスに関する特許を取得する4つの方法


1.「物」の発明

まず、サービス提供に不可欠な道具や装置について特許を取得する方法が考えられます。これは、発明の種類でいうと「物」の発明に該当します。


例えば、飲食事業を営む会社が、「お客が卓上でレモンサワーを作って飲めるセルフサービス」を考案したとします。この場合、レモンサワーのセルフサービス自体は、店と客との間の単なる取り決めであって「技術的思想」には当たりません。よって、サービスそのものを「発明」として特許を取得することはできません。


参考例:飲料水用の卓上サーバーの発明例

しかし、レモンサワーを卓上で作れるセルフサーバーという装置については、「物」の発明として特許取得する余地があります。


「お客が卓上でレモンサワーを作って飲めるセルフサービス」が、「最適化されたセルフサーバー」という「装置」なくして実現しないのであれば、セルフサーバーという「物」について特許を取得することで、ひいてはサービスそのものを保護できます。


このように、他者が勝手に同じサービスを提供することを防ぐために、サービス提供に不可欠な「物」の発明を保護する方法があります。


出典:J-PlatPat


2.「方法」の発明

同様に、サービスの提供に不可欠な「方法」について特許を取得できます。


例えば、ビルメンテナンス会社が、「エスカレーター清掃を含むスピーディなビル清掃サービス」を提供しているとしましょう。このような強みをもつビル清掃サービス自体は、自然法則を利用しているわけではありませんし、技術的思想にも当たりません。


参考例:エスカレーターにおける踏み段の清掃方法

しかし、例えば「エスカレーターにおける踏み段の清掃方法」や「エスカレーターの清掃方法」は、「自然法則を利用した技術的思想」にあたるため、特許を取得できます。


「方法」の発明が認められれば、その方法は特許権者しか使用することができません。従って、他者はビル清掃サービス自体は提供できるかもしれませんが、同じ方法で「エスカレーター清掃を含むスピーディなビル清掃サービス」を提供することはできません。


このように、他者と差別化したサービスを提供するのに不可欠な「方法」について特許を取得することで、サービスを保護できます。


出典:J-PlatPat(特開2000-016744特開平07-252081


3.「ソフトウェア特許」ないし「システム特許」

また、情報通信技術の発展が目ざましい昨今、ソフトウェアやWebシステム(複数のソフトウェアプログラム、もしくはソフトウェアプログラムとハードウェアの組み合わせ)を活用してサービスを提供することも増えています。


そこで、サービス提供に不可欠なソフトウェアやWebシステムについて特許を取得することで、サービスを保護する方法があります。ちなみに、「ソフトウェア特許」も「システム特許」も、「物」の発明の一種とされています。


参考例:オンラインで業者とユーザーをマッチングする不動産仲介サービス

例えば、業者側の提案条件とユーザー側の要望条件を基に、オンラインで業者とユーザーをマッチングする不動産仲介サービスがあります。


オンライン不動産仲介サービス自体に発明性は認められませんが、「双方の情報をデータベースに登録し、条件とニーズを照合し、合致したら業者とユーザーを仲介する機能を備えたシステム」は、システム特許として保護できます。


出典:J-PlatPat


4.ビジネスモデル特許(ビジネス関連発明)

これまで、サービス提供に不可欠な「物」や「方法」の発明について特許取得するアプローチをご紹介してきました。


これに加えて昨今、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の発達とともに、「ビジネス関連発明」と呼ばれる発明が数多く認められています。いわゆる「ビジネスモデル特許」と言われるものです。


例えば、ビジネスを展開するうえでの販売管理や生産管理に関して画期的なアイデアを思いついても、それだけでは「自然法則を利用した技術的思想の創作」と言えず、「発明」には当たりません。しかし、課題解決のためにICT技術を用いてビジネス方法を実現している場合は、「ビジネスモデル特許」として保護されるのです。


参考例1:Amazonの1-click注文



ビジネスモデル特許の有名な例としては、Amazonの「1-click注文」が挙げられます。これは、端末装置やサーバ・システムを用いて、ECサイト上でワンクリックで複数の注文を迅速に確定できる機能を実現したシステムに、特許が認められた例です。

  • 特許 4959817号

  • 特許権者:Amazon.com,Inc.

  • 出願日:1998年9月14日


参考例2:AIによるコーディネートサービス

他にも、サービスに関する「ビジネスモデル特許」の例としては、以下のような事例が考えられます。


ユーザーの好みに合わせた服をコーディネートしてレンタルするサービスがあるとします。服のレンタルサービス自体に発明性は認められませんが、次のような場合はどうでしょう。


スマホなどの端末から取得したユーザーの属性や嗜好(しこう)性に基づき、AIがコーディネートした服を推奨。推奨されたコーディネートから、ユーザーが気に入った組み合わせを選んでレンタルできるサービス。


この事例なら、「情報技術を用いてビジネス方法を実現している」ため、「ビジネスモデル特許」として保護される可能性が高まります。


参考例3:いきなり!ステーキのステーキ提供システム

出典:J-PlatPat


最後に、高度なICT技術を用いずとも、「オペレーションの課題を解決するための技術的手段」に特許が認められた珍しいケースを紹介します。飲食業のサービスに関する特許の例として、参考になる事例です。


株式会社ペッパーフードサービスは、「いきなり!ステーキ」店舗内における「ステーキ提供システム」につき、特許を取得しています。


「ステーキ提供システム」といっても、「①客を立食形式のテーブルに案内する、②客からステーキの量を聴取する、③聴取したステーキの量を肉のブロックからカットする、④カットした肉を焼く、⑤焼いた肉を客のテーブルまで運ぶ」というように、単にステーキを提供する手順を示しただけでは、「技術的思想の創作」には当たりません。


また、各ステップで「札」、「計量器」、「印し」などの道具を用いているものの、それらの道具に「技術的思想の創作」と言えるほどの新しさはありません。


ではなぜ「ステーキ提供システム」に特許が認められたのでしょうか?


それは、5つのステップを含むステーキ提供方法を、「札」「計量器」「印し」を用いた技術的手段によって実現することで、「他の客の肉との混同を防止する」というオペレーションの課題を解決しているためです。

  • 特許 5946491号

  • 特許権者:株式会社ペッパーフードサービス

  • 出願日:2014年6月4日



サービスに関する特許の取り方でベストな方法は?


このように、サービスに関する特許の取り方は大きく分けて4つあります。ではベストはどの方法なのでしょうか。


「物」「方法」の特許は、比較的認められやすい

装置・道具などの「物」ないし「方法」について特許を取得すれば、サービスに不可欠な「物」や「方法」の発明を保護することで、間接的にサービスを保護することができます。これは、従来型の「発明」であり、事例の集積も多いため、比較的認められやすい特許といえるでしょう。


一方で、他の物や方法によって類似のサービスを実現できるため、サービスそのものの独自性を保護するには、やや弱いアプローチです。


「ソフトウェア特許」「システム特許」はサービスの独自性を守りやすい

「ソフトウェア特許」や「システム特許」なら、ソフトウェアやシステムそのものがサービスの仕組みを規定する場合が多いため、道具や方法の特許に比べてサービスの独自性を守りやすいかもしれません。


また、サービスの実現にICT技術を活用したビジネスモデルであれば、「ビジネス関連発明」として「ビジネスモデル特許」が認められる可能性もあります。


また、「技術的手段がオペレーションの課題解決やユーザーの利便性向上をもたらしたこと」を示すことができれば、ICT技術を活用していなくともビジネスモデル特許が認められる余地があります。特許取得を目指すサービスごとに、どのアプローチが適切かを個別に検討するとよいでしょう。



まとめ


サービスに関して特許を取るには、「どのアプローチをとるか」、「申請時にどのような記載をすれば認められやすいか」など、専門的かつ戦略的な考慮が必要となります。


井上国際特許商標事務所では、サービスに関する特許取得のご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。


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