ユーザー視点で顧客体験価値を高め、イノベーションを創出し、ブランド価値を向上させるデザイン経営。製品開発から事業設計、組織づくりにいたるまで、経営全般にデザイン思考を取り入れる経営手法のことを指します。
デザイン経営は、アップルに代表される海外企業の革新的な経営戦略として注目を浴び、良品計画やソニーといった国内企業にも広がりを見せています。今回は、国内外のデザイン経営の成功事例を紹介します。
デザイン経営とは?
デザイン経営とは、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営手法のことです。デザイン思考を経営全般に適用することで、企業は顧客の潜在的なニーズや課題を深く理解し、共感に基づいたソリューションを提供できるようになります。
顧客体験価値を高め、イノベーションを創出し、ブランド価値を生むデザイン経営は、顧客ニーズが多様化し、変化の激しいビジネス界において、企業の競争力を強化し得る経営戦略として注目を集めています。
【海外企業】デザイン経営の事例
まずは、デザイン経営の代表例ともいうべきアップルをはじめとする、海外企業の事例を紹介します。
アップル
アップルは、洗練されたデザインとユーザーエクスペリエンス(UX)を重視することで、世界的なブランドを築き上げてきました。
同社は、製品のデザインだけでなく、パッケージ、店舗、ウェブサイトなど、顧客とのあらゆる接点においてデザイン思考を適用し、一貫したブランド体験を提供し続けています。例えば、「Keynote(キーノート)」と呼ばれる新商品発表会は、顧客との重要な接点として綿密にデザインされています。
近年のアップルは、「Apple Watch(アップルウォッチ)」や「AirPods(エアポッズ)」といったウェアラブルデバイスの開発にも成功しており、デザイン主導のイノベーションが継続的な成長を支えています。とりわけ、ハードウェアとソフトウェアの統合をより一層強化する「M1チップ」以降の自社製チップ開発は、進化したデザイン経営を体現する戦略のひとつといえるでしょう。
ダイソン
ダイソンは、創業者のジェームズ・ダイソンのビジョンに基づき、革新的な製品開発、テクノロジーへの投資を重視したデザイン経営を推進しています。同社は、従来の掃除機の常識を覆したサイクロン式掃除機をはじめ、羽根のない扇風機や高性能ヘアドライヤーなど、独自の技術と洗練されたデザインが施された製品で、世界中のユーザーを魅了しています。
その背景には、大胆な研究開発への投資を行う一方で、ユーザーの些細な不満も見逃さずに解決しようとする同社の企業文化があります。ユーザー視点の課題設定から始まるデザイン思考を用いた経営戦略が、革新的な製品開発を支えているのです。
Airbnb(エアビーアンドビー)
Airbnb(エアビーアンドビー)は、独自のプラットフォームを通じて、世界中の人々がユニークな宿泊体験を共有できるサービスを提供しています。2008年に創業した同社は、ユーザーフレンドリーなインターフェースと信頼性の高いシステムを構築し急成長を遂げました。
同社は、単なる宿泊施設の仲介にとどまらず、旅行者と宿泊施設の両方の「体験」を重視しています。そして、システムをデザインし提供する側の社員自身も、同社の提供する価値を体感・体現できるよう、高いデザイン性と快適さを併せ持つオフィス環境が整えられています。
さらには、ピクサーのアニメーターによって描かれるストーリーボードや、独自開発のオリジナルフォントなど、同社が提供するサービスやコンテンツには、細部にわたるデザインへのこだわりが見られます。
ナイキ
ナイキは、アスリートのパフォーマンス向上を追求するだけでなく、スポーツカルチャーを創造する企業として、デザインを戦略的に活用しています。革新的なシューズやアパレルの開発はもちろんのこと、アプリやデジタルプラットフォームを通じて個々の顧客にカスタマイズされた体験を提供しています。
近年はサステナビリティへの取り組みにも注力しており、循環型経済モデルの構築に向けたデザインも推進しています。ナイキの事例は社会課題解決をデザイン経営に統合した好例といえるでしょう。
【国内企業】デザイン経営の事例
国内企業のなかにも、デザイン経営に成功した企業や、デザイン経営を軸に進化しようとする企業が登場しています。
良品計画
シンプルで機能的な商品デザインが幅広い顧客層から支持を集める「無印良品」。ブランドを展開する良品計画は、商品開発、店舗運営、グローバル展開といったあらゆる事業活動にデザイン思考を取り入れるデザイン経営を実践しています。
無印良品は、「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」の3原則に基づき、商品開発や店舗展開を行っています。無駄を省いた製造プロセスや環境に配慮した素材選定は、企業の社会的責任を果たすうえで重要な役割を担います。また、世界各国で展開される無印良品の店舗は、それぞれの地域の文化やニーズに合わせたローカライズ戦略を展開しつつ、ブランドの一貫性を維持しています。
1980年に誕生し、一時は経営危機に陥ったこともある良品計画でしたが、2001年に代表取締役に就任した松井忠三氏が、ビジネスモデルの構築からリーダーの役割まで経営全般にデザイン思考を取り入れ成功に導きました。これが、今日の良品計画の持続的発展をもたらしたといっても過言ではありません。
ソニー
ソニーは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げ、感性を刺激する製品開発を重視したデザイン経営を展開しています。
「ウォークマン」「プレイステーション」「BRAVIA」など、時代を象徴する製品を生み出し続けてきた同社は、ユーザーの感性に訴えかけるデザインと革新的な技術を融合させることで独自のブランド価値を築いてきました。
2020年4月からは、同グループのクリエイティブセンターで培われたデザインに関する知見と経験をもとに、戦略策定から知的財産管理までデザインに関して幅広いコンサルティングを提供する「ソニーデザインコンサルティング」も始動しています。
パナソニック
パナソニックは現在、「未来起点・人間中心」のサイクルを回しながら競争力強化を目指す「デザイン経営実践プロジェクト」を推進しています。
同社は従来から、使いやすさ、美しさ、環境性能などを追求したデザインによって確固たる支持基盤を確立してきました。これに加えて、「デザイン経営実践プロジェクト」では、既存事業の延長ではなく「実現したい社会像」を起点に現在なすべきことを考えるとともに、「人/くらし/社会/環境の変化」を捉えた戦略構築および事業変革を目指しています。
企業文化の変革をともなう同プロジェクトでは、経営層や事業戦略の策定に関わる事業部門横断的なメンバーを中心に、長期的な事業方針の策定、商品開発ロードマップやR&Dテーマの更新、組織強化、企業風土醸成などに取り組んでいます。
まとめ
今回は、国内外の有名企業の実践例を通じて、デザイン経営の具体例を見てきました。アップルやダイソンといった海外企業だけでなく、無印良品、ソニー、パナソニックといった国内企業も、デザイン経営を取り入れることで、革新的な製品開発や一貫性あるブランド価値の提供に成功しています。
ビジネスを取り巻く環境がめまぐるしく変化するなか、未来にわたり持続可能な経営を目指すために、デザイン経営に舵を切ってみてはいかがでしょうか。
デザイン経営の推進には、商標や特許といった知的財産関連の知見も欠かせません。井上国際特許商標事務所には、知的財産全般の知見が豊富な弁理士が所属しています。ぜひご相談ください。
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