新たな製品を開発した場合、意匠登録を申請すべきか、あるいは特許取得かは、ときに悩ましい問題となります。
そこで今回は、意匠と特許の違いを説明した上で、取得すべき権利を選ぶ際のポイントを解説します。
意匠と特許の違いとは
意匠権は「デザイン」に与えられるもの
意匠とは、新たに生み出したデザインを独占的に利用する権利を認めるものです。
意匠権として保護されるには、今までにない新しい意匠であること(新規性)、容易に創作できたものでないこと(創作非容易性)といった要件を満たす必要があります。
特許権は「発明」に与えられるもの
特許権とは、新たに生み出した技術を独占的に利用する権利を認めるものです。
特許権を取得するには、その発明が今までにない新しいアイデアであること(新規性)、従来の技術から容易に発明できたものでないこと(進歩性)などの要件を満たす必要があります。
模倣されたくないのは「デザイン」か「発明」かで判断する
前述のとおり、意匠はデザインを、特許はアイデアを保護するための権利です。したがって、どちらの権利を取得すべきかは、一次的には「デザイン(見た目)とアイデア(発明)のどちらを模倣されたくないか」で判断します。
開発した製品の中には、「アイデア(発明)を含むデザイン」もあるかもしれません。その場合は、意匠権と特許権のいずれも取得したいところです。しかし、費用や人的コスト、時間的制約の関係で、どちらかの申請しかできないこともあるでしょう。 では、どちらかを優先的に申請したい場合、どのような基準で判断すればよいのでしょうか。取得すべき権利を選ぶ4つのポイントを、次項で紹介します。
【意匠or特許】取得すべき権利を選ぶ4つのポイント
ポイント1:模倣されやすいデザインか
ファッションブランドのバッグや車のデザインのように、そっくりそのまま模倣(デッドコピー)されてしまう恐れのある場合は、意匠登録が適しています。 デッドコピーを防ぐための意匠登録の例としては、東海旅客鉄道が意匠登録している新幹線の車両デザインや、有名デザイナー・イッセイミヤケのバッグのデザインなどが挙げられます。
デッドコピーを防ぐための意匠登録の例1
東海旅客鉄道の新幹線車両:意匠登録第1574840号
デッドコピーを防ぐための意匠登録の例2
三宅デザイン事務所のバッグ:意匠登録第1585137号
ポイント2:デザインが製品の「顔」になっているか
開発した製品が一目でそれと分かるような特徴的なデザイン性をそなえており、いわば製品の「顔」としての役割を果たすような場合も、意匠登録しておくべきです。
例えば、ダイソンの扇風機やドライヤーには、羽根などの従来型の送風用部品が付いていません。そして、羽根の代わりに輪状の空間から風が吹き出す独自のデザイン性をそなえています。
デザインが製品の顔としての役割を果たしている例
ダイソンの送風機:意匠登録第1625940号
ポイント3:デザインのバリエーションは多いか
デザインのバリエーションの多寡もポイントです。デザインのバリエーションが多く、すべてのバリエーションに共通する機能的なアイデアがある場合は、それぞれのデザインについて意匠登録するのではなく、1件の特許を取得したほうが得策といえます。なぜなら、デザインの各バリエーションをすべて意匠登録申請すると費用がかさむからです。
例えば、異なる色やサイズの矯正箸について、意匠権か特許権かを取得するとします。ここで、すべての色とサイズの組み合わせを意匠登録すると大変な手間がかかります。 このようなケースでは、例えば「構造が簡単な矯正用指当て具を有する練習用箸を提供する」という機能面に着目して特許取得を目指すとよいでしょう。
デザインのバリエーションが多いことから特許を取得した例
イシダの矯正用指当て具を有する練習用箸:公開番号 特開2017-46851
ポイント4:特許を取得しやすいかどうか
消去法的な判断基準になりますが、「特許取得がしやすいかどうか」も重要なポイントになります。 特許権の取得には、発明の新規性と進歩性が求められます。つまり、発明が今までになかったものであり、発明が困難であったものでなければ、特許を取得することはできません。したがって、特許取得のハードルが高そうな製品は、そのデザイン性に着目して意匠登録を申請したほうがスムーズです。 実際に、市販のドリップコーヒーの使い捨てコーヒードリッパーについて意匠登録された例や、インスタント焼きそばの容器の湯切り口について意匠登録された例があります。
デザイン性に注目して特許でなく意匠登録を申請した例
大日本印刷のコーヒードリッパー:意匠登録第1438812号 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/DE/JP-2011-006118/9573D3155A1823D9C8DD60DDF677C9B767CCABDC8B9CC57B2E52584FC2C96741/30/ja
凸版印刷の包装用容器の蓋:意匠登録第1232006号
まとめ
意匠と特許のどちらを取得すべきかについての判断方法を解説しました。ここまでに説明したことに加えて、特許は出願の日から1年半が経過すると特許出願が公開されてしまうので、権利取得まで秘密裏に手続きを勧めるべきかどうかも考慮に入れておくとよいでしょう。
井上国際特許商標事務所では、意匠と特許のいずれについても豊富な出願実績があります。出願すべき権利の選択から、事前調査、迅速な手続きまで、ワンストップでお任せいただけます。ぜひ一度ご相談ください。
Comments