クロスライセンスとは、複数の企業や個人が互いの知的財産権を利用できるようにする契約です。クロスライセンスには、限定的クロスライセンスや独占的クロスライセンスなど、契約内容によってさまざまな種類があります。
今回は、クロスライセンスの目的から種類、契約締結の際のポイントまでを解説します。
クロスライセンスとは
クロスライセンスとは、複数の企業や個人が互いに保有する知的財産権を相互に利用することを許諾する契約です。
例えば、企業Aと企業Bがそれぞれ特許を保有しているとします。企業Aは企業Bの特許技術を利用したい一方で、企業Bも企業Aの特許技術を利用したいと考えた場合、クロスライセンス契約を締結することで互いの特許を使用できるようになります。
クロスライセンスの目的
新商品開発
企業がクロスライセンスを結ぶ目的のひとつが、新商品開発です。
例えば、画像認識技術を持つ企業Aと音声認識技術を持つ企業Bが、互いの技術を組み合わせて新たなAIアシスタントを共同開発するケースのように、複数の企業が共同で新商品を開発することがあります。
このような場合にクロスライセンスを結んでおくことで、新商品に搭載されたお互いの技術を自由に活用できるようになります。また、双方の知的財産侵害を懸念することなく技術を持ち寄れるため、イノベーションが促進されやすくなります。
市場競争力の強化
クロスライセンスは、市場競争力強化のためにも活用されています。
クロスライセンスによって最新の技術をいち早く自社に取り入れられれば、競合他社に対して優位に立てます。また、異業種企業とクロスライセンスを締結することで、新たな市場への参入障壁を乗り越えやすくなるケースもあります。
例えば、家電メーカーが保有する家電製品の制御技術に関する特許と、通信会社が保有する通信ネットワーク技術に関する特許をクロスライセンスするケースを見てみましょう。家電メーカーはいち早くIoT関連の最新技術を取り入れて市場における優位性を発揮できる一方で、通信会社は家電業界に参入する足掛かりを得ることで市場を拡大できます。
法的紛争のリスク低減
クロスライセンスは、法的紛争の解決手段としても使われます。
例えば、企業Aが企業Bに対する特許侵害訴訟を起こし、企業Bが企業Aに反訴を提起しているような場合、紛争を長引かせるよりも互いの保有する特許につきクロスライセンスを結ぶほうが、紛争を迅速かつ円滑に解決できることがあります。
クロスライセンスの種類
相互ライセンス
相互ライセンスとは、クロスライセンスの基本的な形態であり、複数の企業や個人が、互いに保有する知的財産権を相互に使用許諾する協力的な契約形態です。
相互ライセンスを結ぶことで、両者は新商品開発や技術改良に互いの特許を活用できるようになります。相互ライセンスによってそれぞれの企業が保有する特許技術を組み合わせることで、単独では達成できない技術革新や市場競争力を強化できます。
包括的クロスライセンス
包括的クロスライセンスとは、企業が保有する広範囲な技術や特許を相互に利用するための契約形態です。特定の製品や分野に限定されず、既存技術だけでなく将来開発される技術にも適用されることが多いのが特徴です。
包括的クロスライセンスには、新規事業への参入障壁や訴訟リスクを大幅に下げるとともに、研究開発の効率化を図れるといったメリットがある一方で、広範囲な技術を対象とすることから次の3点に注意が必要です。
相手企業の技術力を詳細に評価する必要がある。
契約内容が複雑になりやすいため、契約交渉に時間を要する可能性がある。
自社の将来的な技術開発戦略に影響を与える可能性がある。
限定的クロスライセンス
限定的クロスライセンスとは、特定の製品、技術分野、あるいは地域に限定してライセンスを相互に許諾する契約です。包括的クロスライセンスと比べて対象範囲が狭く、企業のニーズに合わせて柔軟に契約内容を調整できるため、戦略的な技術活用を促進するうえで重要な役割を果たします。
限定的クロスライセンスは、以下のようなケースに適しています。
特定の製品分野に注力している企業同士が、その分野に限定した技術提携を行う場合。
共同開発プロジェクトにおいて、開発対象に限定したライセンスを相互に許諾する場合。
特定の地域市場への参入を目的とした合弁事業において、地域限定でライセンスを供与する場合。
一方的クロスライセンス
一方的クロスライセンスとは、ライセンスの許諾は相互に行うものの、特許使用料の支払いは一方の当事者のみが行うという特殊な契約形態です。
通常のクロスライセンスでは、相互に無償で特許を使用できるケースが多いのですが、一方的クロスライセンスでは、技術力や特許ポートフォリオの規模に差があるなどの理由で、一方のみが使用料を支払います。
一方的クロスライセンスの例としては、スタートアップ企業が保有する革新的な技術を大企業が自社製品に活用するようなケースが挙げられます。このような場合、スタートアップ企業が大企業に対して特許実施許諾を与え、大企業はスタートアップ企業に対して使用料を支払います。
一方的クロスライセンスは、スタートアップ企業のように資金調達を必要とする企業にとって、収益源を確保する有効な手段となります。また、大企業にとっては、有望な技術を早期に導入し、競争優位性を築く機会となります。
非独占的クロスライセンス
非独占的クロスライセンスとは、ライセンサー(権利を許諾する者)がライセンシー(権利を許諾される側)以外の第三者にライセンスを供与する権利を保持した状態の契約形態です。
非独占的クロスライセンスは、以下のようなケースで利用されることがあります。
標準規格に必須な特許が対象となる場合。
複数の企業に技術利用を許諾して市場競争を促したい場合。
自社だけでは技術を活用しきれない場合。
非独占的クロスライセンスでは、ライセンシーは必ずしも独占的に技術や特許を利用できるわけではありません。しかし、その分、ライセンス料が比較的安価になるというメリットがあります。
また、ライセンサーにとっては、複数の企業からライセンス料を得られる可能性があるとともに、自社の特許技術の普及を促進できるというメリットがあります。
独占的クロスライセンス
独占的クロスライセンスとは、特定の技術や製品について、一定の範囲内で独占的に利用する権利を相互に許諾する契約です。
通常のクロスライセンスでは、ライセンス供与後も自社だけでなく相手方も自由にその技術を利用できますし、第三者にもライセンスできます。
しかし、一定の範囲で独占的に利用できる権利を定めた場合、その範囲においてライセンサーはライセンシー以外にライセンスを供与できません。つまり、独占的クロスライセンスでは、ライセンシーは特定の分野や地域で独占的に技術を利用できることになります。
独占的クロスライセンスは、市場における競争優位性を高める強力なツールとなりますが、独占禁止法への抵触リスクも高まります。契約内容の策定には専門家の助言を受けることをおすすめします。
クロスライセンス契約を締結する際のポイント
目的と範囲を明確化する
クロスライセンス契約を締結する際には、まず目的と範囲を明確にすることが重要です。契約の目的が曖昧だと、後々トラブルに発展する可能性があります。どのような技術や製品に関して、どのような権利を許諾し合うのかを明確に定義したうえで、互いの権利と義務を明確化し、誤解や紛争を未然に防ぎましょう。
契約条件を精査する
契約条件の精査も不可欠です。契約内容が事業活動に大きな影響を与えるため、細部にわたる確認が必要です。
契約条件の精査においては、最低限、以下の項目に特に注意を払いましょう。
ライセンスの範囲
ライセンスの期間
使用料
秘密保持
紛争解決
契約解除
専門家に相談する
クロスライセンスの契約書には専門用語が多く、内容も複雑であるため、契約締結前から弁理士などの専門家に相談することを強く推奨します。
専門家に相談することで、契約内容の妥当性やリスクについて理解したうえで契約を結べます。また、専門家のサポートを受けることで、契約交渉をスムーズに進め、自社にとって有利な条件で契約を締結しやすくなります。
契約締結後も、技術の進化や自社をとりまく状況の変化に応じて契約内容を修正する必要も出てくるでしょう。専門家は、これらの点を踏まえ、将来的なリスクを最小限に抑える契約内容の策定を支援します。
将来的な変化に対応する
クロスライセンス契約は、長期にわたる関係を構築するものです。締結時には、新技術の登場、市場環境の変化、企業の合併・買収、法改正といった将来的な変化にも対応できるよう、考慮しておく必要があります。
契約期間についても、慎重に検討しましょう。技術の陳腐化や市場の変化を予測し、適切な期間を設定することが重要です。さらに、契約期間満了後のライセンスの取り扱いについても、あらかじめ合意しておくべきです。
契約締結時に将来起こりうる変化を想定し、柔軟に対応できる条項を盛り込むことで、リスクを最小限に抑え、長期的なパートナーシップを構築することが重要です。
まとめ
クロスライセンスは、企業や個人が、新商品開発や市場競争力強化、法的紛争のリスク低減などを目的として、お互いの知的財産権を利用できるようにするための契約です。一般的な相互クロスライセンスの他にも、包括的、限定的、一方的、非独占的、独占的など、さまざまな種類のクロスライセンスがあり、それぞれメリットとリスクが異なります。
締結時には、将来の変化を見据えて、契約の範囲を明確化したり条件を精査したりする必要があります。専門家を活用して綿密に準備したうえで、長期的な視点に立ったより安全で効果的なクロスライセンス契約を実現しましょう。
井上国際特許商標事務所には、知的財産全般の知見が豊富な弁理士が所属しています。ぜひご相談ください。